助成先だより|キヤノン財団

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医療応用を目指した人工核酸の創成「産業基盤の創生」第3回助成 助成期間:2012年4月〜2015年3月

助成期間中の先生の研究内容について

分かりやすく言うと、構造を単純化した人工DNAの創成

DNAの二重らせん構造

DNAとは何か。遺伝暗号の情報を持つ高分子で、地球上の生物みんなが持っているものです。その構造は、教科書などで目にしたことはあるかと思いますが、ふたつのくさりが水素結合を通じて二重らせんを形成しています。(画像) しかし私は、あるきっかけでこの構造を壊したんです。偶然なんですけどね。もっと単純化したんです。そうしたら天然のDNAよりももっと安定した二重鎖を形成できたのです。

天然のDNAは機能という面では何も持っていません。しかし、光に応答したり、蛍光を発するなど、いろんな機能を持ったDNAを人工的に創ると、非常に幅広い応用が出来ます。新しい機能を創り出したいというのと、なぜDNAはリボース※1という骨格を使って二重らせんを形成するのか、というサイエンス。このふたつがこの研究をするうえでの大きなモチベーションとなりました。

キヤノン財団の助成期間中には、カートリッジ型人工核酸をDNA中の適切な位置に組み込むことで、自在な機能をDNAに付与することに成功しました。これは、キヤノン財団がコンセプトのひとつとしている産業応用につながる大きな成果となりました。

私が創った人工核酸「トレオニノールヌクレオチド」は、カートリッジ型というのが大きな特徴で、従来の人工核酸よりも、コストと実用性に非常に優れています。従来、DNAに機能性分子を導入するには、最低でも7ステップという多段階の合成を経る必要がありましたが、3ステップと非常に容易に合成が出来、好きな場所に機能性分子をカートリッジのようにDNAに導入することが出来ます。

より構造を単純化した人工DNAを創ることが出来るようになりました。

※1
リボース: 糖の一種で、五炭糖、単糖に分類される。核酸塩基と結合してヌクレオシドを形作っており、リボ核酸の構成糖として知られている。(wikipediaより引用)

では、研究助成後の進歩・発展は?

テーラーメイド医療や核酸医薬への応用

人工核酸は、医薬に応用できます。遺伝子発現というのは、DNAからRNAにコピーされ、コピーされたものが翻訳されてタンパク質になることです。例えば病気に関する遺伝子があったとして、それを治す方法として一番単純なのは、RNAをターゲットにすることなのです。しかしそのために、天然のDNAを体の中に入れても酵素で分解されてしまうんですよ。それが人工のDNAだと、酵素は分解することが出来ないんです。核酸医薬で一番重要なのは酵素耐性です。我々の人工核酸は、酵素に対してびくともしませんし、毒性もありません。

例えばがんなど、ある特定のRNAの機能を抑えることで、がんの治療にもなりますし、ウイルスのRNAを発現させないようにしようとしたら、そのRNAを壊してしまえば良い。我々のやり方は、コストを抑え、製作ステップが少なく品質も良い。まさに「早い」「安い」「うまい」ですね。キヤノン財団の助成期間の前後で、核酸医薬の基盤技術の確立が更に展開していきました。

また、我々は、蛍光プローブ※2と言っていますが、細胞の中に発現しているRNAを直接観察することで、特定のRNAを検出して診断に役立てる、というやり方にまで共同研究の中で発展させることが出来ました。診断薬としてこれから市販する予定です。

※2
蛍光プローブ: 特定の分子と反応すると分子構造が変化して、強い蛍光を発したり、蛍光の色調が変化したりする、機能性分子の総称。がん細胞のみを選択的に発光させたり、生体分子の状態や機能を生きている状態で可視化したりすることが可能となる。(wikipediaより引用)

研究にまつわるエピソードは?

研究するうえで大事なことは、あきらめないこと。あとは柔軟性。

人工核酸の合成においては、最初は何度も失敗したのですが、苦し紛れに身近にあった化合物を使ってみたら簡単に合成出来ました。それまでの王道の方法ではなく、言ってみれば邪道の方法で(笑)。何回も試行錯誤してきたので、成功した時は嬉しかったですね。研究するうえで、あきらめないことは大事です。あとは柔軟性です。失敗を繰り返していた中で、それまでの常識にとらわれず柔軟に発想を変えることで、成功できました。今では私の方法は浅沼法(メソッド)とも呼ばれるようになりました。うまくいかない場合も、うまくいっている場合も、理由を追及すること。それがサイエンスです。そうすれば壁にはぶつかりません。

研究者になろうと思ったきっかけは?

大学卒業後はもともとは研究者にならず、普通に就職しようと思っていました。でも、理科全般は小中学校時代から良い先生に巡り合えたおかげで、好きでしたね。

大学時代の先生が忙しい先生で、あまり指導がなかったので、自分で考えて検証したり、自由にできて良かったです。自分の思う通りにいったりいかなかったり研究の面白さを感じました。それが楽しかったですね。

卒業後は富士フイルムで働いていたのですが、縁あって大学に戻り、研究者になって、DNAに関わるようになりました。

大学へ戻るきっかけは何だったのですか?

恩師からの勧めです。助手のポストが空いていると。富士フイルムだった頃は光科学をしていましたが、大学でDNAを見たとき、色素の会合体に見えたんですよ。色素が大好きなんです(笑)。塩基の変わりに色素を入れたら絶対に面白いと思ったんです。いつかDNAの中に色素を入れてみようと思って、それでDNAに関する研究を始めたんです。

会社にいた時は自分自身の商品というものはなかったのに、大学に戻って売り物が出来たというのは面白いめぐり合わせですね。

今後の夢は何ですか?

純国産の核酸医薬をぜひつくりたいですね。日本の医薬メーカーで核酸医薬の開発に成功したところはまだありません。日本の核酸化学のレベルはとても高いのですが、商品化出来ていないので、そこを目指したいですね。あとはやはり、なぜ神はDNAの二重らせんをつくったのか、というサイエンス。今の地球環境だからこそのDNA。環境が違えばもしかしたら違う構造になっていたかもしれないですよね。そう考えると、数億年の環境の中でDNAが今の構造に収束した意味はなんでしょう。偶然もあるんでしょうが、きっと意味があると思うので、化学者として、これからも追求し続けたいと思っています。

Profile

浅沼 浩之(あさぬま ひろゆき)

名古屋大学 大学院工学研究科
生命分子工学専攻 教授(工学博士)

http://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/