助成先だより|キヤノン財団

助成先だより|キヤノン財団

HOME助成先だより一覧 > 助成先だより:沖縄の深海に超巨大海底熱水鉱床を探せ

沖縄の深海に超巨大海底熱水鉱床を探せ「理想の追求」第3回助成 助成期間:2012年4月〜2015年3月

助成期間中の先生の研究内容について

ひとことで言うと超巨大熱水鉱床の効果的な探査法の確立、
特にセンサー開発

沖縄トラフの熱水活動域の掘削研究を行い、その成果が出始めてきたところで、キヤノン財団の公募に応募し、採択されました。船に備わった音響探査機と深海で働くセンサーを組み合わせれば、簡単に熱水を見つけられる方法論を我々は既に考えついていたのですが、その方法の実践に必要だったのはセンサーのクオリティでした。

まず熱水を探し、作成した熱水リストから超巨大な熱水を選抜します。熱水探しと選抜を同時に行う秘訣がマルチ化学センサーだったのです。センサーで熱水の化学成分を測定することによって、その下に眠っている鉱床が巨大かどうかを判断することができるのです。そのマルチ化学センサーを開発し、実際に現場でテストする、ということが、キヤノン財団の研究助成金を受けて行った研究です。超巨大熱水鉱床探査自体は国家的プロジェクトなので、当然キヤノン財団の助成金だけでは成り立ちません。しかし、特にセンサー開発においては、キヤノン財団のおかげで前進し、今それをもとにさらに改良が進んでいます。

そもそも沖縄トラフで最初に熱水が見つかったのは1987年。キヤノン財団の助成を受ける2012年までの25年間で、10か所しか見つかっていませんでした。しかし、助成期間の3年間で我々は10か所の熱水を見つけ出すことができました。25年分を3年間で見つけたことになり、そのうちのいくつかは超巨大熱水鉱床の候補として考えられています。

この研究は国家的プロジェクトの一部として捉えることも出来ますが、キヤノン財団の助成金のような民間の資金が入ることで、日本全体で海底資源を開発出来るようになる良いきっかけになったと思っています。キヤノン財団の助成金のおかげで、資金がつきにくいチャレンジングなセンサー開発を行えたのはとてもありがたかったです。

研究助成後の進歩・発展は?

世界一深いマリアナ海溝への挑戦 ― センサー開発はさらなる進化を遂げるべく現在も改良進行中

チャレンジングな開発だったので、センサー開発には2年かかりました。助成期間の最後の1年で、深海で使えることが分かり、期間終了後、2016年、2017年、と使っていくうちに、思いのほかいいな、と。実使用を重ねるたびにめちゃくちゃいいな、と。


スケーリーフット:ウロコフネタマガイ。
インド洋の水深2,500mの深海底に生息する硫化鉄のウロコをまとった巻貝。2001年に発見。

ほんとは、深海で生きる生物がどんな化学成分をどのくらいのスピードで食べ、この地球にどれくらいの影響を与えているのか、だれも見たことのない、知らない世界を明らかにするためにセンサーが欲しかったんです。助成終了後は、どちらかというとそのような研究をしているのですが、キヤノン財団の助成金で土台となるセンサー開発が出来たからこそ、それが別の研究に活かされ、新しい学術価値の創造に結びついています。インド洋では長年謎であったスケーリーフット(写真)の生息化学環境の特定に結びつきました。

実は、我々は今、世界最深部のマリアナ海溝でも使用可能なセンサーにまで改良を進めています。キヤノン財団の助成で製作したマルチ化学センサーのフルデプス化、つまり世界の最も深いマリアナ海溝でも使用できるセンサーの開発を進めています。それが武器になって、マリアナ海溝で大発見に結びつく可能性もあります。

助成期間中に印象に残ったことは?

一番よかったのは、他のすばらしい研究者と出会えたこと。

我々みたいな若い研究者が、選考委員長の黒川先生のようなベテランとやり合えたことが良かったと思います。

黒川先生のしごきを通じて、他の採択研究者と話す機会が増え、互いにしごかれる者同士仲良くなりました。今では「戦友」「マブダチ」と言えるような関係です。キヤノン財団を通じて顔を合わせ交流することができたこと、個々の研究成果の交流ができたことだけでなく、新しい人脈が形成されたこと、それが一番大きな喜びでした。

そもそも研究者になろうと思ったきっかけは?

生物の先生が独特の時間の流れ方を持っている印象があり、それに憧れたのがきっかけ。あとはノーベル賞を取りたかった(笑)

生物学の先生を見ていると、生物に合わせながら、独特の時間の流れ方を持っている印象で、それに憧れたのが一番最初のきっかけです。それと、これから分子生物学が、という時代だったので、生物学でノーベル賞が取りたかった。なにものかになりたかったんです。

あとは悪をさばきたい、など若者らしい非常に単純な理由で、東京地検特捜部の検察官がやりたかったというのもあったのですが。とにかくなにものかになりたかったんです(笑)。どちらを選ぶか、となった時に、自分の独自の世界が築けるのは研究者だと思い、そちらの道を選びました。研究者になりたい、というのが先で、海洋へ目を向けたのはその後です。

では、海へ行くきっかけは何だったのですか?

大学4年生の研究テーマを決める時、友人が、深海の熱水に生命の起源を解く鍵があるならその研究を選ぶべきだ、とアドバイスしてくれたのがきっかけです。ノーベル賞が取れるような風潮の研究ではなかったのですが(笑)、深海の生命の方がはるかに深い題材で、冒険もあるしおもしろいかもしれないと、そちらに進もうと思いました。生命の起源研究はなかなか実体が掴めないロマンの塊。そこに僕は惹かれました。

いま、現場の観察や観測だけでなく、陸上での再現実験によって、生命の起源を検証できる時代になりました。生命の起源が科学としての土俵に乗ってきました。とてもわくわくします。

今後の夢は何ですか?

誰も踏み入れたことのない、人類未踏の環境や学術の領域に一番最初に踏み込み、足跡を残したいと思っています。それは宇宙かもしれない。そして将来の人たちがその足跡に気づいて、さらにはその足跡が日本の高井研だったと知ってもらえるような研究成果を残したいです。
世代、空間、地域を超えて伝わるサイエンスをしたいんです。将来のどこかの誰かのために。

Profile

高井 研(たかい けん)

国立研究開発法人 海洋研究開発機構
深海・地殻内生物圏研究分野 分野長(農学博士)

http://www.jamstec.go.jp/