助成先だより|キヤノン財団

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野菜の安定供給を実現する植物工場の生産効率向上を目指す「産業基盤の創生」第4回助成 助成期間:2013年4月~2015年3月
採択テーマ:植物工場における超高速環境パラメータ最適化手法の開発

助成期間中の研究内容について

植物工場において、いかにコストを下げ、安定生産に最適な環境を実現するかを生産方法の制御という観点で研究

2009年に国の補正予算で植物工場※1が全国に10か所できたのですが、大阪府立大学はもともと園芸分野に強い大学で、人工光に特化した拠点として植物工場をリードしてきました。当時、植物工場は注目されてはいたものの、コストがかかるので産業的に採算がとれるのかと言われていて、コストを最小にするための光や温度などの環境の最適化(最適化のシステムのチューニング)が最優先の課題でした。私たちは植物工場のコストをいかに下げ安定生産に最適な環境につなげるか。それを目標とし実現するために、キヤノン財団の助成に応募しました。

助成期間中は、全遺伝子の情報を用いて生産の方法論をきちんと固めるという、当時はあまりやられていなかった最先端の考えのもと研究を進めました。紫蘇を研究対象として、数万個ある全遺伝子から生成される代謝物質の内、11,000個程の成分分析を行いました。そして、分析結果に基づいて紫蘇をどう育てれば安定生産できるかを研究。LEDの光や温度をコントロールすることによる栽培方法の制御に取組み、環境の最適条件を見出す手法、また安定生産の手法など技術的な枠組みを確立しました。当初の目標は助成終了時点で達成することができ、研究スタイルの一つのモデルとなって、レタスの植物工場など紫蘇以外の他の野菜にもどんどんあてはめることができています。

※1
光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、など、植物の生長に必要な環境条件を施設内で人工制御して、安定的に野菜や花を育てる生産システム。

助成後の進展は?

ツボ草という大手化粧品メーカーの化粧品の原材料にも使われている薬草の研究に取り組みました。薬草は環境によって成分が大きく変動するんです。だからこそ、薬草の生育をコントロールできれば、薬用成分もコントロールできるということでターゲットにしました。紫蘇の研究者は非常に多いので、新しいものをやろうということで、まだ誰も知らないけれど役に立つかもしれないツボ草をとりあげ研究を進め、成果が上がってきています。

また、私たちのセンターとしての取組みでは植物工場生産品のブランド化に力を入れています。現在大阪府立大学の植物工場のレタスは、毎日6000株生産され、「府大マルシェ」というブランド名で、近隣のスーパーなので販売しています。無印良品と提携して販売しているサンドイッチに私たちがレタスを提供する企画はとても評判が良く、2回開催されました。

自然栽培では、予想出来ない天候で植物が全滅になるケースもありますが、植物工場の最大のメリットとして安定生産があります。災害が多い地域や、もともと作れないような地域、例えば砂漠やシベリアなどの寒冷地で、植物工場はものすごく需要があると思います。今の日本経済の仕組みの中ではペイしないけれども、将来的な人類の社会構造からすると、おそらく必須になってくると思いますね。日本でも昨年、一昨年にレタスが高騰した時は、並べたそばから売り切れてしまいました。

また、パクチーのように、薬草の苦みやえぐみを人工光の植物工場でコントロールするということも、原理的には出来ると思います。そうすると、市場も拓けてきますね。

助成期間中に印象に残ったことは?

キヤノン財団の助成金は輝きのある助成金

キヤノン財団に採択された時はほんとに嬉しかったです。20倍をはるかに超える採択倍率と多額の助成金額が2つの自慢できるポイントですが、ほとんど奇跡のようなものだと思いました。

キヤノン財団の助成は限定された特殊な研究を採択してくれるという感じがします。やはり研究は特殊じゃないとだめなので、そういう意味でも輝きのある助成金だと思います。

一番印象に残ったのは、贈呈式で、有名人であるキヤノンの御手洗会長と握手出来たこと。それが一番の私の励みになりました。

では、研究者になろうと思ったきっかけは?

小学校の時、「ターミネーター」などの映画で見たSFのマシンをとにかく作りたいと思って、物理に憧れを抱き、中学2年の時には物理学者になりたいと作文で書いたことを明確に覚えています。実家が、自動販売機まで4km離れているような山奥の農家で、周りは植物ばかりだったので、植物というのはある法則に基づいて生きている、物理学のような法則性があるなということも直感的に感じていましたが、農業はもうからないな、とも思っていたので(笑) 物理学者を目指しました。

大学院に進むと、生物物理という分野があって、体内時計が太陽の光にどう同期しているかなど、生物現象がきれいな方程式で書ける時代になっていました。一旦、生物物理の研究者になり立てのころ、これは農業に活かせるなと思っていましたが、従来の農業には行かずに工学者になり、工学の面から農業を見ることになりました。農学と工学は元来方法論が全然違うと思います。工学はすさまじいスピードで発展します。量子の世界をあやつりながら実生活に生かす、という風な観点で見ると、植物生産の工業化は必ずできると私は信じています。

最後に、今後の夢は?

AIによる植物工場のブラックボックスを解明すること

今後、植物工場は、国際的競争の激化が予想されます。これまで日本は、植物工場についてかなり研究し、学術的に世界をリードし、教科書といえるような書籍もたくさん書かれています。しかし規模がものをいうAI技術が発展する近い将来、育種から生産、市場に至るまでAIが介入するようになり、植物工場でも日本は海外に遅れを取ることになるだろうと危機感を感じています。これは学生の教育にも影響してきます。人材育成を考えた時に、産業としても研究領域としても我々は最先端でなければいけません。卓越した学生が育たなければ、卓越した研究者・技術者も生まれません。

世界に完全に負けてしまわないように、何をしておかなければいけないのか。ひとことで言うとAI時代におけるサイエンスを追及したいと考えています。AIのブラックボックスの中にはちゃんとした法則があって技術が存在するので、それを日本人が解明して、世界にそれを利用してもらうようにする。それが私の今やるべき仕事だと思っています。

Profile

福田 弘和(ふくだ ひろかず)

大阪府立大学
工学研究科 教授/博士(工学)

http://www.bioproduction-opu.info/