助成先だより|キヤノン財団

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沖縄発! 海洋の”未知”を探求
-深海に生息する幼生輸送メカニズムの解明- 「理想の追求」第2回助成 助成期間:2011年4月~2014年3月
採択テーマ:深海底熱水噴出域の幼生輸送と生物群集変動

助成期間中の研究内容について

深海生物の進化の謎を解き明かす幼生拡散予測メカニズム

深海の熱水噴出孔※1の周りには、人類にとって有益な鉱物が含まれていて、熱水噴出孔の鉱床の開発は世界的に注目されています。鉱床開発にあたっては環境影響評価がとても大切ですが、その影響を定量化するものがありませんでした。私は、せっかく沖縄科学技術大学院大学(OIST)にいるのだから、沖縄という地域特性(沖縄トラフ)を生かして環境影響評価に貢献したいと思い、深海の研究で実績のある海洋開発研究機構(JAMSTEC)とチームを組んで、キヤノン財団の助成研究をスタートしました。

具体的には、深海の底にある熱水噴出域の幼生※2が海洋の流れによってどのように移動するかという拡散メカニズムを、流体力学をベースとした物理学的なアプローチと遺伝学をベースとした生物学的なアプローチを融合して解明することを目指しました。チャレンジングな研究でしたが、海中の物質や幼生の輸送を定量化することに成功し、環境影響評価や生物集団遺伝学の研究にとって、とても貴重なデータを得ることができました。

※1
熱水噴射孔:熱せられた水が噴出する深海にある地底の亀裂
※2
生まれて間もない時期(幼生期)の生物

助成が決まった時の気持ちは?

キヤノン財団の助成をいただけたからこそ、この研究を手掛けることができたと思っています。海洋観測機械によるデータ取りには航海調査が必須なのですが、あの頃はまとまった大きな資金がなくてなかなか一歩が踏み出せないでいました。助成が決まった時は、JAMSTECの協力を得るきっかけにもなって、これでこの研究をスタートできる!と、とてもうれしかったですね。

融合的な分野の研究は競争的資金を獲得することが難しく苦労していましたが、キヤノン財団の助成プログラムは今までにない新しい分野の研究や融合的な分野の研究も歓迎していて、そこで自分の研究が認めてもらったことはうれしかったです。

海洋研究を進めるうえで心がけていることは?

海洋学は、地球上のあらゆる海域を研究する学際的な科学分野なので、分野を超えた複数の研究者がツールを持ち寄って海域を理解しなければいけません。協力関係を広げながら研究を進めることは、OISTに来てすぐから意識しながら取り組んでいます。

JAMSTECや共同研究者からは深海のことを教えていただけて、そのサポートは非常に大きかったと思っています。また、琉球大学のサンゴの生態系の研究者や海洋レーダの研究者とも協力関係を結ばせていただいています。琉球大学はサンゴ礁の研究で長年の実績があり研究分野も幅広く、多くのサポートをいただいています。このような研究者のネットワークは私の宝物です。

研究のご苦労は?

海洋の研究は、気象に大きく左右され予定通りに計画が進まないことも多いです。航海に出ての海洋調査は年に何回も計画できるものではありません。キヤノン財団の助成中にも、JAMSTECの調査船を使わせていただいて、1週間沖縄トラフ内でいろいろな観測をする機会に恵まれたのですが、ちょうど台風とぶつかってしまってなにもできなかったことがありました。この時は、成果が出せないのではないかとかなりのプレッシャーを感じました。

研究者になろうと思ったきっかけ、海洋の研究に進もうと思ったきっかけは?

小さい頃から好奇心が旺盛で、研究者になりたいと思っていました。日本の大学では流体力学を専攻して、卒業後は、海洋システム工学科で研究したご縁で水産庁の研究所に就職しました。そこでさらに海の研究に触れ、海の研究をやりたいという思いが生まれました。流体力学と海洋?と思われるかもしれませんが、海の流れは流体力学そのものなのです。

更に本気で海洋研究をするためにワシントン大学に進み、そこでは乱流の研究に取り組みました。その後は海洋研究に流体力学の知識を生かすためにカリフォルニア大学のサンタバーバラ校に進みました。そこでの経験が、OISTでサンゴ礁を対象に幼生輸送の研究を始めるきっかけにもなりました。

助成後の進展は?

キヤノン財団での研究によって得られた海洋調査でのデータや、海流のシミュレーションツールは、前例がない貴重なデータとして研究者の間で高い評価をいただいています。この成果は、私自身の研究の幅を大きく広げてくれるきっかけの一つになりました。

多くの共同研究へのお誘いを受けましたし、専門家として独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の環境影響評価グループに委員として加わることになり、そこでさまざまな助言をしています。

また、海難事故の多い海域で海難事故を防ぐ啓蒙活動をするため、海上保安本部と共同での観測や研究、情報発信に取り組もうとしています。協力関係の一環で開発した潮流シミュレーションは、3週間先の潮流情報を事前に面的かつ1時間ごとに確認可能で、海上保安庁から感謝状をいただきました。

世界初の試みとして、NTT宇宙環境エネルギー研究所のみなさんと、台風の強度予測に役立つ台風の下の海と大気の相互作用の調査にも取り組んでいます。 

私の研究が、結果として社会や地域への貢献につながっていることを実感し研究者としての励みになっています。

今後の夢は?

一つの分野にとらわれることなく、知的好奇心にしたがってこだわりを持たずに様々な研究にトライしていきたいと思っています。今はサンゴ、深海、台風の研究を極めたいと思っていますが、まだ興味の範囲が広がっている最中です。自然界で起こるすべてのことを知りたい、そしてこれまで解き明かされていなかった事柄を次々に明らかにしていきたい。そんな気持ちを持ち続け、これからも研究と向き合っていきたいと思っています。

海外の大学にいた時もOISTに来てからも、多くの研究者から声をかけてもらって、いろいろな分野の研究にたずさわらせてもらって感謝しています。自分の研究がいろいろな分野とつながり、結果を出すことが社会への恩返しになると信じています。OISTのある沖縄は自然豊かな海に密着しているので、沖縄という土地や人々にも感謝を込めて、サイエンスを通して貢献していきたいです。

Profile

御手洗 哲司(みたらい さとし)

沖縄科学技術大学院大学
海洋生態物理学ユニット
准教授 / 学術博士

https://www.oist.jp/ja/research/research-units/mbu