助成先だより|キヤノン財団

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低侵襲BMIの医療応用
「産業基盤の創生」第9回助成 助成期間:2018年4月~2020年3月
採択テーマ:Deep learningと脳ビッグデータによる想起画像推定

キヤノン財団採択時の研究内容をお聞かせください

研究の目的は、人が想起した画像を脳活動から読み解いて、実際の映像としてモニターに出す技術を作ることでした。

背景として、2013年に参加した研究における、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気の患者さんの意思伝達手段の開発があります。ALSはどんどん体が動かなくなってくる病気なんですが、最終的には一切筋肉が動かなくなって、意思を伝える方法がなくなってしまうんです。そういう時に脳信号だけで意図を伝えることができる唯一の方法が、BMI(Brain Machine Interface)という技術です。

Mariska et al., NEJM, 2016, 2024より

研究内容としては、まず人が写真を見ているときの脳の活動を記録し、AIに脳活動と写真の意味との関係を学ばせました。すると、見たことのない写真でも、脳活動からその内容を高精度に推測できたのです。次に、この仕組みを応用し、被験者に道具を頭でイメージしてもらいました。すると、脳活動から推定された意味に近い画像が200万枚以上の画像から検索され、リアルタイムに表示されます。画像を見ながら想像内容を調整することで、思い描いた意味の画像に近づけることができました。このような技術により、言葉や文字の伝達手段を持たない方が、想像することで意図を伝えることができるようになると期待されます。また、思い浮かべるだけで情報検索や操作ができる、未来のインターフェースへの大きな一歩となり得ます。

キヤノン財団助成後の研究の進展と社会へのインパクトについて

キヤノン財団では技術の基本的なところをご支援いただいたのですが、さらにそこから社会実装しようとすると、課題が発生します。

脳波を取得する方法として、侵襲型と非侵襲型があります。侵襲型だと、針を脳に刺すものや、脳の表面に電極を置くものなどがあるんですけど、全部全身麻酔をして開頭手術が必要なので、侵襲が高いものは、重症の患者さんにはちょっと厳しい時もあります。一方、非侵襲型は頭皮にセンサーを置くだけで手術不要ですが、信号精度が低く、安定した取得ができないという問題があります。

これらの問題に対処するため、世界では低侵襲化がトレンドになっていて、例えば皮膚と骨の間に電極を入れる事例もあります。開頭手術は不要ですが、信号精度は頭蓋内に劣る欠点があります。

私たちは、JSTムーンショット・プロジェクトの中で、2023年から極低侵襲技術として「血管内BMI(Brain Machine Interface)」に着手しています。血管内BMIとは、脳の静脈血管の内壁に柔らかい電極やセンサを含む電極を運んで貼り付け、脳内の活動を見るためのシステムです。社会実装のためには、どうしてもこのようなデバイスが必要になってきます。デバイスは私だけではできないので、共同研究しています。

社会へのインパクトという面では、医療機器としての適用のため、つい最近ivecという会社を起業しました。全体のまとめ役と解読の部分を担い、私が代表をやっています。わたし自身も脳外科医なので、このような侵襲デバイスを医療に持っていくところでは、医師のリードが必要だと思っていて、そこは貢献していると思います。血管の中にものを入れることによる詰まりや出血の懸念など、結構リスクが高いと見られることが多いのですが、そのようなリスクももちろん評価をしていきます。

脳の血管はいろんなところに走っていますので、視覚想起だけではなくて、運動能力の回復や、失語症や記憶喪失の治療というところが今後ターゲットになると思っています。

今の研究にたどり着いた経緯について

子どもの頃から物理が好きで、大学は理学部に進み、大学院では物理を使ってシミュレーションで生物の研究をする研究室だったのですが、その中にニューロサイエンスのチームもあって、生命がどのようなダイナミックスを持っているかの研究をしていました。そこで実験よりはコンピューター上でシュミレーションすることによる睡眠の研究をしてました。当時、医療系含めいろいろな本を読んで睡眠のことを勉強したなかで、医療の中で数式というのが出てこないと感じたんです。もうちょっと数理として考えたらもっと良くなるんじゃないかなと思い、医学の方に入りたいと思い始めました。そうしたなか、大阪大学で研究医養成コースができたという話があり、一期生として医学部に途中編入しました。その後脳神経外科の大学院に進み、たまたまなんですが、ATRというところとBMIの共同研究をすることになりました。ATRは計算神経科学でとても有名で、前の大学にいる時から知っていました。医療への数理応用という想いに合致していたこともあり、私はそのATRの神谷先生のところで教えていただきながら脳外科で撮ったデータを解析するという両方に所属させていただいていました。基礎の研究者としては、神谷先生に教えていただいたという感じですね。神谷先生との出会いは、いろんなアイディアや、今の研究にも大きな影響を与えています。

今後の展望や夢をお聞かせください

侵襲BMIをぜひ治療として実現したいと思っています。起業はその一つの方法ですが、さらにエコシステムがあるといいなと思います。侵襲方式についても、日本の技術、材料はすごいパテントを持っています。日本で、侵襲型の医療技術という一つの分野を広げていきたいのですが、一人では難しいので、一緒に取り組む仲間をもっと増やしたいですね。

また、今学生さんがBMIを勉強したいと言った時に、どこで勉強したらいいかわからないというのをよく聞くんですね。そもそもニューロサイエンスの学科は日本では少なくて、医学部や工学部にラボが点在しています。私は医学部ですが、できるだけ幅広く教育できるような環境を作って、日本で医療技術として、BMIだけではなくて、AIと新種デバイスを組み合わせたようなものがもっとできていく環境を作りたいです。

次世代に伝えたいことは?

私自身、物理学から医学、そしてBMI研究と、一貫性がないような人生なんですが、そういうのもありだと思っていただけるといいなと思います。途中でいろいろ言われると思いますが気にせず頑張ってください、と伝えたいです。こうしないといけないということはないと思うんですよね。研究者においても、今は大学だけでなく、起業して研究をする人もいます。例えばオープンAIもほぼ研究者ですよね。研究の形もいろいろ変わってきて、選択肢も増えていますし、必ずしも今までのオーソライズしたところだけと限らなくていいのではないかと感じています。

是非、ご自身の興味に従って自分らしい場所を探していってほしいと思います。

Profile

栁澤 琢史(やなぎさわ たくふみ)

大阪大学大学院医学系研究科神経情報学
教授/博士(医学)

https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/nsurg/yanagisawa/